不味いラーメン

こんにちは、MIZです。いつもお疲れさまです。

この物語は、出来がよろしくありません。途中でどうでもよくなってしまい、気分の赴くままに書いてしまいました。男子学生がゲームについて考えるあたりです。

「不味いラーメン」

国道沿いに中華料理店が建っている。夜になると、子供を連れたファミリーが多く来店する。カップルや学生もよく来る。観音扉を開けて風除室をすぎれば、ぴかぴかの床、高級そうな大鉢に生けられた胡蝶蘭。余念なく清掃されたレジカウンター、天井から架かる派手なシャンデリア。そして、豚みたいな顔付きをしたホール責任者、ピンクと白色の衣装を身につけたおばちゃん、学生アルバイトの女の子、ちゃらちゃらした浮気者の若い男子学生。なかなか繁盛している。ランチタイムにはお手頃価格でボリュームたっぷりの定食を提供する。レバニラ定食、豚野菜定食、チャーシューたっぷりラーメンセット。
今は水曜日の夜で、お客の入りが少ない。店員が働いていて、もう少しお客が来てくれた方が楽なのにと感じてしまうくらいの暇さだ。忙し過ぎるとしんどいけれども、暇すぎると時間が経つのが遅くて退屈なのである。
午後9時を過ぎ。忙しさのピークが終わったかと店員が思っていると、ホールスタッフのアルバイトがラーメンを持って厨房までやってくる。先ほど作ってすぐに出したはずのラーメンが返って来たのだ。持って来たのはちゃらちゃらした浮気者の若い学生である。髪は茶色に染まっている。
「すみません、味がしないって言われて、返って来ました」浮気者の学生は言う。
「えぇ? 俺、ちゃんと作ったよ!」厨房でラーメンを作った男は言う。年は30歳前後。正社員である。サラリーマンだ。
ちゃんと作ったラーメンが戻ってきたのである。このお店ではよくこういうことが起こる。
ラーメンを作った男は、スプーンでスープをすくい、口まで運ぶ。目線は上方に向いている。真剣な目付きだ。そして、首を傾げる。どこが悪いのかよくわかっていないのだ。というか、どこが悪いのかわかるようならそもそもせっかく作ったラーメンは返却されてこない。
「わかった、作り直すから、お客さんに今から作り直すから、って言ってきて。」ラーメンを作った男は言った。
そんなもん自分が言いに行けばいいのに、と学生は思った。でも、決して口外はしない。
学生は仕方なく、言われたとおり、お客の元へ向かう。
大人が6人ほど入れるくらいの個室だ。窓際には君子蘭が生けられた鉢が置かれてある。今はまだ開花時期ではなく緑色の分厚い葉だけが堂々と左右対称に広がっている。窓からは国道を走る車がよく見え、夜景を楽しむことができる。
学生はゆっくり戸を開ける。
手前側に若いご夫婦とお子様、奥の方にはご年配の夫婦が座っている。部屋の中はお通夜みたいに静かだ。まさかラーメン一杯で部屋の空気がここまで静まり返ることはあるまい。きっと、ラーメンの前にいろいろとあったに違いない。ラーメンはきっかけに過ぎない。
「すみません。ただいま作り直しておりますので、少々お待ちいただいてもいいですか?」
奥の方に座る白髪の男が頷く。金縁の眼鏡をかけている。大きな四角いレンズだ。そして、よく見ると、チェーンまでかかっている。そんなに高価な眼鏡なのだろうか。
手前に座る夫婦は申し訳なさそうに恐縮している。なにもラーメン一杯でそこまで向きにならなくてもいいじゃないか、と心の内が伝わってくるようだ。
浮気者の学生は戸を閉める。面倒だし、早く帰りたいと思っている。忙しくないから、退屈なのだ。この中華料理店では出勤したスタッフには無料で賄いが出る。だから、賄いを食べてさっさと帰りたいと思っている。たかがアルバイトだ。今日みたいな暇な日は自分がいなくても店は回る。家に帰って、ゲームのスイッチを入れて、モンスターをゲットしたくてたまらない。レベルを上げて、敵を倒し、みんなから感謝されて、次の町へ行く。そして、次の町でも同じような事を繰り返し、またもヒーローになり、みんなから「ありがとう」と感謝される。新しいアイテムをゲットし、かっこいい魔法を新しく覚え、更に強くなるのだ、これから。そのためには、まず賄いを食べて、早く家に帰らなければならない。おじいさん、我がままを言っていないで、黙って出されたものを食べていればいいんだよ。

浮気者の男子学生は料理の出てくるカウンターまで戻る。マズいラーメンを作った人は、ラーメンを作っている。ラーメンを入れる紺色の器がステンレス製の平台の上に用意されている。
しかし、店中の従業員は知っている。これから出来上がるラーメンもマズいということを。というのは、いつも賄いでこの人の作る料理を食べているからだ。どんなものを作ってもあんまり美味しくないのである。店にはサラリーマンコックが正社員として4人、採用されている。その内2人の作る料理はどんな物でも大抵おいしくて、残りの2人の作る料理はどんな物でも大体あんまり美味しくない。今回のマズいラーメンを作った人はもちろん後者に属する。
先ほど返って来たラーメンは、中身が入った状態で洗い場に放置されている。そのまま捨てられることになる。あぁ、もったいない。けれど、そんなことを考えるなら、世間には折角出来上がった食べ物が
そのまま捨てられるという話はいくらでもある。もしかすると、食べ物が捨てられることをおかしいと思うこと自体間違っているのか、と考えてしまうほどに。
「ほら、出来たよ」ラーメンを作った人が言った。
清潔に磨かれたカウンターの上にラーメンの入った器が置かれる。おいしそうだ。見た目はとてもよろしい。
男子学生はラーメンをトレンチに載せ、お客の待つ個室へと向かう。たまたまだが、再度自分が持っていくことになったのだ。
先ほどと同じように、ゆっくりと戸を開ける。
部屋の中は相変わらず静かだ。子供がいるのに全然盛り上がっていない。出されたラーメンがマズくても黙って食べていればこんなふうにはならなかったのかもしれない、と思ってしまうくらいだ。けれど、たとえラーメンが期待通りの味であったとしても別の場所で同じようなことを繰り返すに違いない。さみしいから、かまってほしいのだ。自分はこのお店によく来る常連なんだぞ、というアピールなのである。
「失礼します。」と一言添えて、ラーメンを老人の前に置く。さっきと同じような味なんだろうな、と思いながら。
きっとこの老人はちょうど今目の前にあるラーメンのスープを一口すすって、この店も味が落ちたな、と思うに違いない。ほんとうのところは、作った人の腕が足りないだけなのに。
学生は重苦しい空気の漂う部屋から出て、戸を閉める。そして、この沈鬱な空気が少しでもお店の中へ広がることのないようにと祈りながら、通路を歩き、元の場所へと戻る。
もう、いいよ。これ以上は関わりたくないよ。
学生は仕事なんてどうでもいいくらいになっている。面倒なことは起こらないほうがいいのだ。
あぁ、腹が減った。早く家に帰ってゲームしたい。
学生の頭の中にあるのは、テレビゲームのことばかりなのだった。(完)